内と外の狭間でひとり取り残された感覚
君の声が聴こえた気がして応えてれば
僕の声は僕じゃないみたい
内と外の狭間でひとり取り残された感覚
君の声が聴こえた気がして応えてれば
僕の声は僕じゃないみたい
次の時代を担うのは君たちだ。
親と同じくらいの年の奴に、息を吐くように、当たり前のように言われた。
放置し過ぎた炭酸水のような気の抜けた声で、
「そうですね」と答えたけれど、
愛想笑いの顔には内から滲み出る不快感が隠せなっただろう。
自分自身受け入れるのに必死なのに、
自分を受け入れてくれなかったあの社会を担うなんて無理だ。
ゆとり世代で学んだ「道徳心」と「郷土愛」は、
今じゃただの「理不尽」と「重荷」にしかならない。
本当に社会が求めているのは、
僅かな給与でも文句も言わずお国のためと働き、
バブル時代のように派手に娯楽を楽しみ経済を回す人材だ。
仕事終わりはベットに潜り、
休日は陽のあたる部屋でセロトニン製造に勤しんでいる僕には無理だ。
共有を拒否したくせに、
少しでもこの気持ちを共有してくれる誰かを探して、
独り言を垂れ流している自称傍観者。
次の時代があるかもわからないのに、ならば今を必死で生きればいいのに。
自分に素直になればなるほど、
建前も肩書きも血縁も由縁も結局役に立たないと
知った時から人間失格。
夏の太陽に油断すれば、昔の自分が目の前でずっとを古傷を抉ってくる。
思い出したくないことも、すれ違いざまの過ちも腹立たしい止まらない。
いつまでたっても治らない。
過去の瘡蓋。
まるで頭の蓋が空いてしまってたよう
次から次へと襲いかかる現実が
ぐるぐると奥の奥へと引き摺り回し
僕を押しやって思考を鈍らす
口は息をする代わりに本心ではない他人の言葉を紡ぎ始める
それが身体中の血管を巡って
僕がぼくで無くなる感覚
けれど吐瀉術なんて知らないから
奥に追いやられた僕が出来る限り大声で
正確に他人ではない言葉に置き換えることに精一杯
自我の波打ち際で保っている
ただただ僕がぼくでいるために
自分で定義した自分を振る舞うために
他人ではなく僕のためだけに肯定するために
一度他人を受け入れてしまうと
僕はぼくでなくなる
他人に同調し共感し精一杯の鏡で在ろうと努める機械化する
そして他人が僕を不要になったと同時に
僕がぼくのためだけに涙する
思考を乗っ取られ蹂躙された気分になって
夜に独りで反省会
ぐるぐるの思考と波に攫われる程度の自我で
この身体の至る所に点在する古傷
瘡蓋後で薄っすら色付いたそれが
目に留まる度に抉るから年々濃くなっている
思い出したくないくせに自分から進んで掻き毟る
その古傷の原因と決着はついているだろう
タイプカプセルじゃないんだから掘り起こす必要がないのにさ
独り言 独り言 独り言
古傷への罪状を問い質す脳内会議
いつも自分が
有罪 有罪 有罪
気分が優れない時 調子に乗っている時
劣等感を隠すためのマッチポンプ
可哀想を演じて被害妄想もそろそろ卒業したい
無傷 無傷 無傷
自分に嘘のプレゼンテーション
いつも同じ内容
無能 無能 無能
興味のない会話は急ぎ足
結論なんてどうでもいい
今傷ついている自分を早く慰めて
素直に認めろよ
事実は事実でしかない
その先を自分勝手に作り上げる創造性を殺してやりたい
一段と厳しい夏の陽射しに焦がされる日々
肌に痛い熱を感じる度に
この身体に染みついた原罪が許された気になる
内側で燻る怒りも悲しみも浄化し
ありのままの世界と対峙した時
ちっぽけだからこそ愛おしい子羊たちを俯瞰する
そう、現代の菌を抹消され
俗的な上下左右に惑わされない
fixed指定された加工肉
人生の旅人たちが同じ姿になることを
手招くだけの存在になれた気になる
太陽に打ち据えられた皮膚の爛れと交換に
真夏の期間だけ聖人
登っているか降りているかわからない
だだ後ろから急かすあれやこれやのせいで
同じところぐるぐる回っている
無駄に歳を重ね肉だけが勝手に成長するくせに
なんでこうも思考は成長しない
苦悩も不幸もまだ足りないのか
自傷行為の捗る脳は今は薬で眠っているけど
代償として現実がまるでペーパーブック
生きている実感が欲しいと願えば
自暴自棄な感情で
平穏に生きたいと願えば
固執していた拘りもただのゴミ
成績も階級も年収も年齢も身長も
目に見えるものも見えないものも
上と下があるから認識はできるけど
自分には刺激的だな
嘘を吐いてまで登り詰めたいこともないけど
謙遜し過ぎて舐められるのも癪だな
と、考えたところで面倒くさい自己嫌悪
あるがままで生きれない世の中では
その日毎にその場面毎に自分を上げ下げの反復運動
たまに踏み外して怪我をするんだよ
結局その場から進んでないことに気付き堂々巡り
全く成長しない階段を何往復すれば
この人生ってやつは終わるのだろう
全ての事柄がフラットになれば摩擦が起きないのに。
仕事に向かう途中にXはそう感じた。
神経症が蔓延るこの世は、差異の激しい時代の文化が摩擦し合う精神戦争だ。
他人に優しく自分に厳しい人間から脱落していく。
この時代に適応できない人間は自ら命を絶つ。
それは淘汰という残酷な言葉に相応しい。
一度は焼け野原になったこの地は真っ平らでは、
生き残った人達がみんな同じ思いで一生懸命耕してきた。
人情 助け合い 譲り合い 気持ちを汲む 空気を読む
それはお互いの感情をフラットにするための大事な事柄だった。
けれどこの時代は違う。
平等 自由 自己主張
これらの旗を高く掲げ、票を稼いだものが勝者だ。
それが悪いとは思わないが、ハードルが高いと実感してしまう。
カオスティックと称してもいいが、敢えていうならこの世は凸凹だ。
現代の人間は決して劣っている訳ではなく、一部に秀でるものが多いだけ。
それに気付かず万能性を求められるからみんな爆発してしまう。
摩擦の落とし子だ。
今、この世界に必要なのは手当たり次第の自由や無節操な平等より、
この凸凹をフラットにするために「感情の仕組みの理解」と「個々の特性の尊重」を深めることなのだ。
凸な彼彼女は事実を捉える事ができるが、感情を汲み取ることができない。
それでいいのだ。
凹な彼彼女は感受性が強く優しいが、自分を殺してしまう。
それでいいのだ。
そういったお互いの短所と長所が逆の人達が互いを「感情の仕組みの理解」と「個々の特性の尊重」を深め、
互いに余裕を持ちことでフラットになれる。
勿論最初は激しい摩擦があるかもしれないが、それを乗り越えることで得られる別世界が広がるのだ。
今まで大事にしていたのは
その裏にある付加価値のせい
元彼女から買ってもらった本
尊敬していた彼が好きだと云ったCD
父親から貰った使い古しのコーヒーメーカー
ボロボロでも壊れてしまっても
ずっとしまっていた
自分では得られない価値観を
あたかも自分のもののように錯覚するために
今はもういない彼らにしがみついていた
でももう違う
本当に守りたい人ができた
自分が好きな音楽を知った
違う機械でもあの味は忘れない
僕は覚えている
ものがなくてもその先の付加価値のこと
辛い記憶も楽しい記憶もそれ以外も全部
結局僕は忘れたくても忘れられないのだから
何にもなれないと踠いていた彼女が
初夏の風と共に消えた
群青色の空の中で雲が西から東へゆっくり流れ
アスファルトの上で踊る陽炎は車から轢かれ続ける
河川敷で寝そべっていた僕らは
現実に直撃しないように回り道をしながらお互いの迷想を語り合う
勤務先の管理体制の杜撰さへの怒りだったり
行先が見えない政治への不満だったり
空覚えの世界情勢への憂鬱だったり
そんな話を持ち出すのは
本当はどうでもいいことで
お互いに傷つくことがない話題だからだ
いつもより紅潮した頬の彼女が突然立ち上がり
手にした心理学書を川に投げ捨てた
何にもなれない彼女が何かになりたいと切に語った
その話題は幾度となく聴いていたが
その度に彼女自身が傷つくから避けていたのに
頬に伝う涙を気にも止めず彼女は
演説のように拳を突き上げ群青の空を殴り続けた
僕を真っ直ぐに睨みつけながら
何かになりたいと崩れ落ちた
キラキラと輝く水面を背景に
彼女のその姿がとても綺麗だと思った
何にもなれないと踠いていた彼女は
初夏の風と共に消えた
もう少ししたら彼女が大好きな夏だったのに
一足先に何かになれる時代へ行ってしまったのかもしれない
あの日と同じように河川敷に寝そべりながら
いつかの初夏の風が彼女を連れ戻してくれることを期待しながら
ひとり誰も傷つけない迷想に耽る