夏の太陽に油断すれば、昔の自分が目の前でずっとを古傷を抉ってくる。
思い出したくないことも、すれ違いざまの過ちも腹立たしい止まらない。
いつまでたっても治らない。
過去の瘡蓋。
カテゴリー: 言葉の亡骸
波打ち際の回転木馬
まるで頭の蓋が空いてしまってたよう
次から次へと襲いかかる現実が
ぐるぐると奥の奥へと引き摺り回し
僕を押しやって思考を鈍らす
口は息をする代わりに本心ではない他人の言葉を紡ぎ始める
それが身体中の血管を巡って
僕がぼくで無くなる感覚
けれど吐瀉術なんて知らないから
奥に追いやられた僕が出来る限り大声で
正確に他人ではない言葉に置き換えることに精一杯
自我の波打ち際で保っている
ただただ僕がぼくでいるために
自分で定義した自分を振る舞うために
他人ではなく僕のためだけに肯定するために
一度他人を受け入れてしまうと
僕はぼくでなくなる
他人に同調し共感し精一杯の鏡で在ろうと努める機械化する
そして他人が僕を不要になったと同時に
僕がぼくのためだけに涙する
思考を乗っ取られ蹂躙された気分になって
夜に独りで反省会
ぐるぐるの思考と波に攫われる程度の自我で
無傷を装い踊れ
この身体の至る所に点在する古傷
瘡蓋後で薄っすら色付いたそれが
目に留まる度に抉るから年々濃くなっている
思い出したくないくせに自分から進んで掻き毟る
その古傷の原因と決着はついているだろう
タイプカプセルじゃないんだから掘り起こす必要がないのにさ
独り言 独り言 独り言
古傷への罪状を問い質す脳内会議
いつも自分が
有罪 有罪 有罪
気分が優れない時 調子に乗っている時
劣等感を隠すためのマッチポンプ
可哀想を演じて被害妄想もそろそろ卒業したい
無傷 無傷 無傷
自分に嘘のプレゼンテーション
いつも同じ内容
無能 無能 無能
興味のない会話は急ぎ足
結論なんてどうでもいい
今傷ついている自分を早く慰めて
素直に認めろよ
事実は事実でしかない
その先を自分勝手に作り上げる創造性を殺してやりたい
熱処理加工された聖者
一段と厳しい夏の陽射しに焦がされる日々
肌に痛い熱を感じる度に
この身体に染みついた原罪が許された気になる
内側で燻る怒りも悲しみも浄化し
ありのままの世界と対峙した時
ちっぽけだからこそ愛おしい子羊たちを俯瞰する
そう、現代の菌を抹消され
俗的な上下左右に惑わされない
fixed指定された加工肉
人生の旅人たちが同じ姿になることを
手招くだけの存在になれた気になる
太陽に打ち据えられた皮膚の爛れと交換に
真夏の期間だけ聖人
上昇と下降
登っているか降りているかわからない
だだ後ろから急かすあれやこれやのせいで
同じところぐるぐる回っている
無駄に歳を重ね肉だけが勝手に成長するくせに
なんでこうも思考は成長しない
苦悩も不幸もまだ足りないのか
自傷行為の捗る脳は今は薬で眠っているけど
代償として現実がまるでペーパーブック
生きている実感が欲しいと願えば
自暴自棄な感情で
平穏に生きたいと願えば
固執していた拘りもただのゴミ
成績も階級も年収も年齢も身長も
目に見えるものも見えないものも
上と下があるから認識はできるけど
自分には刺激的だな
嘘を吐いてまで登り詰めたいこともないけど
謙遜し過ぎて舐められるのも癪だな
と、考えたところで面倒くさい自己嫌悪
あるがままで生きれない世の中では
その日毎にその場面毎に自分を上げ下げの反復運動
たまに踏み外して怪我をするんだよ
結局その場から進んでないことに気付き堂々巡り
全く成長しない階段を何往復すれば
この人生ってやつは終わるのだろう
物を捨てた日
今まで大事にしていたのは
その裏にある付加価値のせい
元彼女から買ってもらった本
尊敬していた彼が好きだと云ったCD
父親から貰った使い古しのコーヒーメーカー
ボロボロでも壊れてしまっても
ずっとしまっていた
自分では得られない価値観を
あたかも自分のもののように錯覚するために
今はもういない彼らにしがみついていた
でももう違う
本当に守りたい人ができた
自分が好きな音楽を知った
違う機械でもあの味は忘れない
僕は覚えている
ものがなくてもその先の付加価値のこと
辛い記憶も楽しい記憶もそれ以外も全部
結局僕は忘れたくても忘れられないのだから
彼女不在の夏
何にもなれないと踠いていた彼女が
初夏の風と共に消えた
群青色の空の中で雲が西から東へゆっくり流れ
アスファルトの上で踊る陽炎は車から轢かれ続ける
河川敷で寝そべっていた僕らは
現実に直撃しないように回り道をしながらお互いの迷想を語り合う
勤務先の管理体制の杜撰さへの怒りだったり
行先が見えない政治への不満だったり
空覚えの世界情勢への憂鬱だったり
そんな話を持ち出すのは
本当はどうでもいいことで
お互いに傷つくことがない話題だからだ
いつもより紅潮した頬の彼女が突然立ち上がり
手にした心理学書を川に投げ捨てた
何にもなれない彼女が何かになりたいと切に語った
その話題は幾度となく聴いていたが
その度に彼女自身が傷つくから避けていたのに
頬に伝う涙を気にも止めず彼女は
演説のように拳を突き上げ群青の空を殴り続けた
僕を真っ直ぐに睨みつけながら
何かになりたいと崩れ落ちた
キラキラと輝く水面を背景に
彼女のその姿がとても綺麗だと思った
何にもなれないと踠いていた彼女は
初夏の風と共に消えた
もう少ししたら彼女が大好きな夏だったのに
一足先に何かになれる時代へ行ってしまったのかもしれない
あの日と同じように河川敷に寝そべりながら
いつかの初夏の風が彼女を連れ戻してくれることを期待しながら
ひとり誰も傷つけない迷想に耽る
忘却
もしかしたらと振り返り
何もないから身を戻す
そうといえばと下を向き
大事でないと顔を上げる
此処は何処だと立ち止り
帰る場所がないことを思い出す
大事なものを落としたことに気付かず
時代の波に呑まれる生活
他人ばかり愛想よく自分の心も救えずに
自己犠牲ばかりに精を出す
探す旅に出た筈なのに裏側ばかり心配し
歩き疲れ 泣き疲れ
いっそ全てを忘れよう
幼き夢に浸って溺れ 今も過去も泡沫に
いつか自分を忘れる日まで
初夏の朝露
大好きなあなたが
遠くへ行ってしまったような初夏の朝
庭に咲いた鉄線の葉に朝露がキラキラしている
目の前のあなたは話す語彙は変わらないのに
その笑顔も その口調も その仕草も
今まで見たことない
昔は泣いてばかりだったのに
仕事が忙しくて悩む暇がないとぼやく
桜色の唇がカップの中の黒を吸い込んで美味しいと云った
あなたが飲めなかった珈琲だということに気付いた
今まで生きた中で一番大好きなあなたの傍に
ずっといるのは自分だけだと信じていた
そう思わなければ救われなかった
誰かの何かになりたかった
そんな所詮ただの人生の飯事
ミルクで誤魔化した珈琲を啜り
窓から射し込む初夏の陽に
今日も暑くなりそうだと呟く
あの鉄線の朝露はいつのまにか消えていた
曇天の向こう側
いつもより時間がゆっくり流れるのは、処方された薬のせいか、曇天のせいか。
天気と同じどんよりした頭の中で今日の出来事を忘れないように、書類の裏に書き留める。
書いている途中でペンの芯が、ぐにゃぐにゃと走り出す。
書き殴られたようなその字は、自分ではないみたいだ。
仕事に集中できなくて、しばらく初夏の曇天を見ていた。
重苦しい空気が雨を予感させ気が滅入る。
気持ちを紛らわせたくて好きな曲を流したら、
彼らは雨の良さを歌うから、異端者になった気分だ。
外側と内側の狭間で、どちらにも居られない寂しい感覚。
自分不在だ。何にもなれない。誰にもなれない。
誰かに承認されたがっている。
外側でも内側でもない何処かで駄々を捏ねる自分を横目に見ながら、
曇天の空の向こうを想像した。
大好きな夏が運んでくるあの澄んだ青い空が、
きっとこのぼんやりとした感覚を吹き飛ばしてくれることを信じている。
目眩がするほど明るい光を浴びているだけで、自分の内側と外側の雑菌が消える感覚が好きだ。
あの緑の匂いが濃い風に吹かれている間が、自分が何者であろうが気にしなくなる。
あの川沿いの公園にある人工的な小川で足を浸している間、ずっと夏の一部になってしまいたいと思う。
今は曇天は雨を誘うけれど、それが終われば、
きっとやってくる夏の予感を頼りにあと少し頑張ってみよう。