物語は。始まらない、

夏、だったと思う。

僕は実家の縁側に座って、空を眺めていた。

実家は東北の田舎町で、名産といえば険しく美しい山と、土左衛門が終着する豊かな海、時に反乱する清らかな湧き水。
平和主義の二世達が、ひたすら田畑を耕し、自然観光と農作を売り物にして生計を立てていた。
特に僕の家は、山の麓で人通りも少なかったから街灯すらなかった。
まあ、そんなんだから、夜は星が結構綺麗に見れた。あと、蛍もたくさんいた。

そう、話を戻そう。その日は、すごく晴れていた。

空の色が印象的で、喩えるなら水が足りない時の絵の具のように濃い群青色。
空気が、太陽と生い茂る草と乾燥した土のせいで熱いわ、青臭さわ、泥臭いわ、なのに、酷く湿気っていた。ただ、なんかそれが心地よくて。

縁側でぼんやりしていたら。

(豹がいるから此処を通れない)

田圃の真ん中に大きな麦わら帽子を被った真っ黒に日に焼けた爺さんに言われたんだ。
爺さんの周りには、糞暑いのに何十匹の厚い毛で覆われた羊がいてさ。
爺さん、異国風の堀の深い顔なのに、流暢な日本語で、また、言うの。

(豹がいるから此処を通れない)

(通れなければ、この羊たちも通れない)

爺さんの鋭い眼光は真っ直ぐ僕を差していた。
空寒い気分になり部屋の中入ろうとしたら、縁側の前に豹がいた。

今までいなかったのに、いきなり。爺さんの方見ると、ぼんやりしてるの。話しかけられる前の僕みたいに。

豹なんて、どうしていいかわかんなくてさ。とりあえず、戦ったさ。

漫画の表現であるでしょ?殴りあうときに出る謎のモコモコと星。あんな感じで。

で、どうにかこうにか、僕が優勢になって、豹を頭の上に持ち上げたのさ。

勝者の雄叫びって感じに。

そしたらさ、悪寒が走ったんだ。

僕の次の行動は、実家の近くにある溜池―いきなり現れた底なし沼みたいな場所にさ、この豹を投げ捨てなければいけない。

その映像が見えた。そしたら、ゾッとしたの。虫だったら殺れるよ?ただ、猫とか犬とかの大きさとか、哺乳類とか、ましてや豹ってデカいだろ?人間よりもデカいやつ。

殺すんだ、僕。って、想像したら、すごい罪悪感と不快感。

でも、爺さんが困っているのも嫌だし、映像の通りに溜池に豹を落とした。

そして、豹は死ぬ。

俺は、爺さんのところに行くと、やつら居なくなってんの。

なんだよ!お礼もなしかよ!って。

不貞腐れていると、なんか怪しい機関から勧誘されるの。

―その力で私達を救ってくれないか?

って。