伽藍堂の心

君の残骸をすっかり運び出し
伽藍堂の部屋に春風が駆け巡る
引っ越した当時を思い出す
このよそよそしさが今は愛おしい
縛られるものは何もない
身軽になった今は空も飛べる気がした

適当に詰め込んだ鞄と
お気に入りの曲を聴きながら
馴染みの坂道を下る
寂れた商店街を通り過ぎ
すれ違う人がいないこの町は
群青の空と薄紅色の桜だけが鮮やかに誇る

これから始まる物語は誰も知らない
踏みしめる大地も 眩しい陽射しも
全て僕のものだ

君の残害はすっかり抜けて
行き先も知らない電車は走り出す

病める時も 悲しみの時も 貧しい時も
君を愛し 敬い 慰め 助け
命ある限り添い遂げようと誓った
あの幼い約束を反古し身軽になった今は
本当に何もない

僕は電車に揺られ
遠退く君の故郷を見届ける
軽すぎる身体は伽藍堂のまま
群青の空に飛んでしまう

君を街に置き去りのまま
行き先の知らない電車は走り続ける

投稿者:

三本不明

不安でどうしようもない、頭が冴えすぎて寝られない夜に吐き捨てる完全無欠の文字列ブログ