大好きなあなたが
遠くへ行ってしまったような初夏の朝
庭に咲いた鉄線の葉に朝露がキラキラしている
目の前のあなたは話す語彙は変わらないのに
その笑顔も その口調も その仕草も
今まで見たことない
昔は泣いてばかりだったのに
仕事が忙しくて悩む暇がないとぼやく
桜色の唇がカップの中の黒を吸い込んで美味しいと云った
あなたが飲めなかった珈琲だということに気付いた
今まで生きた中で一番大好きなあなたの傍に
ずっといるのは自分だけだと信じていた
そう思わなければ救われなかった
誰かの何かになりたかった
そんな所詮ただの人生の飯事
ミルクで誤魔化した珈琲を啜り
窓から射し込む初夏の陽に
今日も暑くなりそうだと呟く
あの鉄線の朝露はいつのまにか消えていた