曇天の向こう側

いつもより時間がゆっくり流れるのは、処方された薬のせいか、曇天のせいか。
天気と同じどんよりした頭の中で今日の出来事を忘れないように、書類の裏に書き留める。
書いている途中でペンの芯が、ぐにゃぐにゃと走り出す。
書き殴られたようなその字は、自分ではないみたいだ。

仕事に集中できなくて、しばらく初夏の曇天を見ていた。
重苦しい空気が雨を予感させ気が滅入る。
気持ちを紛らわせたくて好きな曲を流したら、
彼らは雨の良さを歌うから、異端者になった気分だ。

外側と内側の狭間で、どちらにも居られない寂しい感覚。
自分不在だ。何にもなれない。誰にもなれない。
誰かに承認されたがっている。
外側でも内側でもない何処かで駄々を捏ねる自分を横目に見ながら、
曇天の空の向こうを想像した。

大好きな夏が運んでくるあの澄んだ青い空が、
きっとこのぼんやりとした感覚を吹き飛ばしてくれることを信じている。
目眩がするほど明るい光を浴びているだけで、自分の内側と外側の雑菌が消える感覚が好きだ。
あの緑の匂いが濃い風に吹かれている間が、自分が何者であろうが気にしなくなる。
あの川沿いの公園にある人工的な小川で足を浸している間、ずっと夏の一部になってしまいたいと思う。

今は曇天は雨を誘うけれど、それが終われば、
きっとやってくる夏の予感を頼りにあと少し頑張ってみよう。

投稿者:

三本不明

不安でどうしようもない、頭が冴えすぎて寝られない夜に吐き捨てる完全無欠の文字列ブログ